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地域にとって重要な産業の抽出方法

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概要

 地方自治体や地域にとって、自分の地域がどのような産業が重要かを認識することは大切だ。

 特に、地域経済や産業施策などを考える際に、これからの成長産業を考えることは必要であるが、いかんせん未来のことは分からない。
 ある産業が今後成長が見込まれるとして、支援・推進するとしても、実際にその地域の産業のプレーヤーは自治体ではなく個々の企業であることから、その地域に一定の産業基盤がなければ、支援・推進は難しい。

 また、成長産業を論じる前に、地方自治体などは、自分の地域の重要産業を見誤っていることも多い(詳しくは下記を参照してほしい)。

地域にとっての重要産業の誤謬・歪み

 そこで、統計に基づいて、その地域の産業として、どのような産業が重要であるかについて、分析方法を考えてみたいと思う。


基本的な考え方

 地域にとって、重要な産業を考える際、一つの方法として特化係数を用いることが考えられる。

 簡便な方法なので、本サイトでも、特化係数を用いて分析を行っている場合もあるが、一面でもある。
 特に、地域の施策を考える場合には、特徴的であるだけでは問題である。なぜなら、その産業がその地域で特徴的であっても、全国的な産業規模として小さければ、施策の効果・影響も小さくなるからである。

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 分かりやすい例として、伝統産業などが挙げられるのかもしれない。
 伝統産業は各地域で産地が形成され、地域の産業の一つの特徴となっている。しかし、日本人のライフスタイルの変化や価格競争で、産業規模としては小さくなっている。

 逆に、産業の特徴としてはあまりなくても、産業の規模として大きければ、地域の施策としてどうするか検討するに値する。

 以上のような観点から、経営学で一般的なPPMの考えを援用して、地域の産業の特徴である「産業特性」と、産業の大きさである「産業規模」の2軸を用いて、それぞれの地域で、どのような産業が重要であるかを検討しようと思う。

PPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント)


分析方法

 2軸で考えるに当たり、「産業特性」と「産業規模」に関する指標を抽出する必要がある。

 「産業特性」については、他の地域と比べて、大きな指標であることで値を抽出できる。
 「産業規模」については、日本全国の指標を用い、他の産業に比べて値が大きいか小さいかで判断が可能だ。

 そして、この2軸を用いると、地域にとって、ある産業の位置づけを抽出することが可能となる。

産業特性
小さい 大きい
産業規模

競争産業
優位産業


劣位産業
ニッチ産業


優位産業

 右上の「優位産業」は、産業特性・産業規模ともに高く、重要な産業といえよう。
 更に、政策・施策的に強化を実施し、その優位性を維持したり、産業特性や産業規模の増大を目指すべき産業である。


競争産業

 左上の「競争産業」は、産業特性としては弱いが、産業規模としては大きい産業である。
 政策・施策的には手を付けず、劣位産業を招くか、ある種の施策・支援を実施し、優位産業へと導くかが重要となる産業である。
 特に、現在の自分の地域の産業の状態、他の地域の動向などを注視し、政策・施策を検討しなければならない産業とも言えよう。


ニッチ産業

 右下の「ニッチ産業」は、産業特性としては強いが、産業規模としては小さい産業である。
 成長産業や衰退産業で見られるような領域であるが、成長産業の場合には往々にして、産業分類上「その他」に区分されるため、衰退産業で現れやすいともいえる。
 ただ、産業規模としては小さいため、新たな参入も少なく、産地化・ブランド化ができている産業ともいえる。

 そのため、産業としては既存の産業の支配力を増し、産業特性を強化するか、産業規模全体を活性化する必要が生じる。
 下手をすれば、衰退産業を支援するという間違いを犯す危険性があるとともに、ある種の強みを有する産業ともいえる。


劣位産業

 左下の「劣位産業」は、産業特性・産業規模ともに小さく、地域の産業としては弱い産業である。
 その産業として、全く企業立地がなかったり、あっても他の地域と比べ劣位にあり、産業自体も規模としては小さい。


分析例

 以上のような考えのもと、製造業に関し、各都道府県として重要な産業の抽出を実施した。

 具体的には、平成24年の工業統計(細分類)を用い、産業特性と産業規模それぞれに関し、偏差値をとり、指標化したものである。

 データとしては、出荷額や付加価値額などを用いたかったが、工業統計においては、事業所数が少ない場合には個別事業所の出荷額が分かってしまうため、秘匿されている部分がある。秘匿がないデータとしては、事業所数と従業者数であるが、事業所数では事業所で大きくその規模が異なるため、従業者数を用いて計算している。

 また、上位のランキング付けにおいては、産業特性と産業規模の偏差値の合計で抽出を行っている。

 なお、「自動車部分品・附属品製造業」のように、産業によっては、産業規模で非常に偏差値が高く、どこの都道府県でも重要な産業として、抽出されるような例があった。そのため、それぞれの都道府県で全国における従業者数のシェアが1%以下の産業は、産業規模が大きくとも、その地域では競争性に満たないとして、排除した。

 以上の結果として、北海道の例を挙げたのが下表である。


順位 産業 産業特性 産業規模 産業パターン
1位 その他の水産食料品製造業 106.7 63.9
優位産業
2位 冷凍水産物製造業 113.6 49.9
ニッチ産業
3位 干・蔵品製造業 112.9 50.1
優位産業
4位 オフセット印刷業(に対するもの) 54.8 101.7
優位産業
5位 パルプ製造業 108.9 46.3
ニッチ産業
6位 冷凍水産食品製造業 100.7 51.8
優位産業
7位 砂糖製造業(砂糖精製業を除く) 105.0 46.4
ニッチ産業
8位 一般製材業 94.3 55.4
優位産業
9位 生菓子製造業 75.9 72.3
優位産業
10位 すし・弁当・調理パン製造業 66.1 80.0
優位産業


 おおむね地域としての特徴的な産業を抽出できているのはと思うと同時に、都道府県によっては意外な産業が、重要産業であると抽出できていると思う。

各都道府県の結果については「都道府県別分析」の「製造業」を参照してほしい。
なお、それぞれページでは上位20位までを掲載している。

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