命名権・ネーミングライツ(naming rights)という言葉を聞いたことがあると思います。
本稿では、この命名権・ネーミングライツについて、解説します。
ネーミングライツとは?
そもそもネーミングライツとは何でしょうか。
これは、自治体などが民間企業に、公共施設の名前を付ける権利を売却するというものです。
例えば、横浜市が所有する「横浜国際総合競技場」は、日産自動車がネーミングライツを取得し、現在「日産スタジアム」となっています。
ネーミングライツのメリット
企業にとっては、公共施設に自社の名前などを付すことにより、PR効果が期待できます。その施設がイベントなどで利用されたり、ニュースなどで紹介されるごとに、自社の名前が取り上げられるため、大きなパブリシティが期待できます。
自治体などにとっては、命名権を販売することで、収入を得ることができるため、メリットがあると言えます。特に、大規模な公共施設の場合、その維持費も大きくなるので、その財源確保に役立つことになります。
また、どうしても、自治体が名称をつけるとお堅くなったり、馴染みにくい名前になったりします。
好みの問題もあるかと思いますが、「東京スタジアム」よりも「味の素スタジアム」のほうがスッと頭に入ってきて、覚えやすくなると思います。
このように、ネーミングライツ自体は、企業・自治体双方にとって、メリットのある仕組みです。
ネーミングライツの課題
上記のように、企業・自治体双方にメリットがあるわけですが、万能というわけではなく、いくつかの課題があります。
①企業の不祥事
企業が不祥事などを起こした場合、施設のブランド自体が毀損してしまうという問題があります。
例えば、宮城県の宮城球場は、かつて「フルキャストスタジアム宮城」という形で人材派遣会社・フルキャストに命名権を与えていましたが、フルキャストに違法行為・不祥事があり、契約が打ち切りになった例があります。
②住民の抵抗
公共施設によっては、長年、住民にとって、愛されてきた名称がある場合があります。
この場合、ネーミングライツにより、名前が変わることに抵抗があり、うまくいかない場合があります。
逆に、鳩サブレーで有名な豊島屋は、地元の鎌倉市が「由比ガ浜」「材木座」「腰越」の3つの海水浴場に関して命名権の販売を実施した際には、それらの命名権を購入した上で、地元に長年愛されてきた名称だからということで、敢えて名称を変更しないという選択をした例などもあります。
③名前の変更
契約期間があるので、施設名が頻繁に変わるといった問題もあります。
例えば、上記の宮城球場は、次のように、頻繁に名称が変わっています。
・フルキャストスタジアム宮城
・日本製紙クリネックススタジアム宮城
・楽天Koboスタジアム宮城
・Koboパーク宮城
・楽天生命パーク宮城
これでは、住民からは分かりにくく、混乱が生じやすいと思います。
④購入企業がない
確かに、企業にとってはPR効果はあるのですが、命名権の金額によって、買い手がつかない場合があります。
企業にとっては、広告費が生じるため、特に地方では、ある程度の広告費を負担できる企業が限られてきてしまうため、不調という事態になります。
また、地方では、命名権を購入できるような企業は、地元でよく知られた企業であることが多いので、あえて命名権を購入してまでPRをする必要がないという側面もあります。
⑤よい施設がない
上記の「④購入企業がない」と絡みますが、自治体が命名権を販売しようと思っても、大規模な施設がない自治体などは難しい面があります。
企業にとっては、大きな施設でいろいろなイベントなどに利用してもらえれば、ニュースなどで取り上げられ、より広告効果が出てくるわけですが、小さな施設で有名でないイベントなどしかやっていない施設では、どうしても広告効果が弱くなり、企業の買い手が付きにくくなります。
提案募集型ネーミングライツ
自治体にとっては、収入を多くしたいため、ネーミングライツを積極的に進めたいところですが、実際は買い手がつかないことが多いのが実態です。
そこで、地方自治体などが施設などを指定するのではなく、命名権を購入したい事業者などが、命名したい施設を提案できるという「提案募集型ネーミングライツ」が行われたりもしています。
通常、随時受付を行い、事業者からネーミングを付したい施設・名称・金額・期間などの提案を受け、自治体内での関係機関との調整、自治体と事業者による協議などを経て、決定される場合が多いです。
珍しいネーミングライツ
ネーミングライツと言えば、大きな公共施設が多いのですが、次のようなものについて、ネーミングライツを募集していることがあります。
・トイレ
(例)大阪市「天王寺公園トイレネーミングライツについて」
・歩道橋
(例)大阪府「歩道橋ネーミングライツ事業パートナー企業募集」
なお、一時期、泉佐野市は市の名前を命名権で販売するといった話もありました。
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