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地方自治体の会計の在り方について

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 かつて、国も含めて行政の会計について、単式簿記・現金主義が採用されており、複式簿記・発生主義に変更して、より企業会計のようにしていくべきだという話があった。

 単式簿記というのは単に取引を積み上げていくというものであり、複式簿記は取引には原因と結果という二面性があり、それに基づいて記帳すべきというものである。例えば、物を買った場合、単式簿記ではお金を支払ったという事実と物を受け取ったという事実が別個に記帳される(ときには、物を受け取ったという事実は記帳されなかったりもする)。一方、複式簿記では、お金を支払ったという事実とともに、資産・費用などという形で、一緒にこの取引が記帳される。

 また、現金主義は、現金のやりとりがあった際に記帳するというものであるのに対して、発生主義は現金のやり取りが生じるような原因が発生した時点で記帳するというものである。例えば、1か月後にお金を支払う契約をした場合、現金主義では1か月後に記帳されるのに対して、発生主義はお金を支払う原因が発生した契約時に記帳が行われる。

 このようにいうと分かりにくいが、この主張の眼目は、予算・決算ではなく、企業のような財務諸表を公開すべきだということである。

 そこで自ら調べ財務諸表を作成している場合もあれば、総務省ではモデルを示しており、それに基づいて公開している場合もある。

外部リンク総務省「総務省方式改訂モデル


 ただ、このような流れの中、財務諸表を全く作成していないようなところも多い。また、公表されている自治体の財務諸表を見ても、得られるものは少ない。
 理由としては、5つほど挙げられるだろう。

 1つは、やはり自治体に単純に企業会計を導入しても、自治体と企業では活動・事業が異なるので、うまくいかないということなのだろう。例えば、企業会計の大きな目的は、利益の増減を表すことに対して、自治体ではそういう目的は乏しい。

 2つは、何の会計情報を公表すべきのかが不明確であるため、折角、財務諸表を作成しても、意味がないことが多いからである。例えば、財務諸表作成の意義の一つとしては、資産と負債の状況を明らかにすることだろう。しかし、道路などは売却ができないことが多いので、資産性を有するとは言い難く、資産と負債に関する明細が分からなければ、情報としては利用しがたい。

 3つは、外郭団体などの存在である。「国から地方へのお金の流れ方」でも書いたが、外郭団体などが国から補助金を受けていたり、外郭団体が借金をしている場合もあるので、自治体の一般会計や特別会計だけを合算しても、真実の姿を表すことはできない。総務省のモデルでは、企業会計と同様に、出資比率が高いものについては、自治体の作成する財務諸表に合算すべきだとしている。ただ出資は少ないが、継続的な補助金で運営されているような外郭団体もある。この外郭団体の取り扱いについて、しっかりと決めておかなければ、情報としては意味がなくなってしまう。

 4つは、自治体の作成する財務諸表の見方についても、しっかりと基準を定めるべきだろう。例えば、企業の財務分析の指標として、自己資本比率というものがあり、この比率が高いほど、健全な企業だとされる。しかし自治体においては、そもそも資本というものがないので、自己資本比率が低くなったりする。また逆に、自己資本が多いということは、それだけ自治体がお金を余らせている(利益を上げている)ということでもあるので、違う観点で見れば自己資本比率が高いということが良いことだという話にはならない。この点で、独自の見方・基準を定めなければ、かえって誤った評価になってしまう。

 5つは、現状はこれまでの予算・決算に加え、更に財務諸表を作成することになるので、作業として煩雑になってしまう。地方自治法上の会計の在り方を変えない限り、地方自治体としては負担が増すばかりである。

 私は、今の自治体の会計は問題があると思うが、単に企業会計を導入しても意味はないと思っている。
 自治体の財政を見る際に気になるのは、どれだけお金が使われているかであり、借金がどれだけあるのかということだろう。前者のどれだけお金が使われているかという点については、現状の予算・決算でもある程度、把握できる。しかし、後者の借金がどれだけあるのか、それを返済するための資産をどれだけ有しているのかといった点は、つまびらかではない。
 企業会計を導入する前に、外郭団体を含めた資産・負債の状況について、公表していくことが重要である。

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