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何か変だぞ、「農業保険」

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 政府では、減反廃止を視野に、農家のセーフティーネットを設けるため、農業保険の創設を検討している。
 減反で米の供給が増え、価格下落が予想される中、所得や売上が落ち込んだ農家に対して、保険金を支払うという仕組みのようだ。


 しかし、変だと思うのは、保険金の原資は保険料であり、保険料は農家が支払うということである。
 つまり、個々の農家で見たときには、保険料を多くもらったりする農家が出るだろうが、マクロ的には単に農家間で所得の移転を進めるだけの仕組みである。しかも、所得の落ち込みなどにより保険料がもらえるので、儲かっている農家が儲かっていない農家に所得を移すだけである。
 そうすると、この保険に参加するのは、儲かっていない農家だけになるのではないだろうか。

 これは、経済学の教科書的な話である「逆選択」のような例である。逆選択とは、情報が非対称的である場合に、悪い商品が場に残り、いい商品が場から淘汰されるというものである。例えば、自動車保険を例にとると、運転がうまいドライバーは自分は事故を起こさないと思うので、保険には入らないが、運転が下手なドライバーは事故を起こしやすいので、保険に加入する。この結果、この自動車保険には運転の下手なドライバーしか加入しなくなってしまい、その保険は成立しなくなるという現象だ。

 それでも、自動車保険のような現実に存在しているのは、運転がうまいドライバーでも事故を起こすリスクがあり、事故を起こしたときの損害が大きいからだ。また、リスクを重く見るというリスク回避的な人間心理がそこには横たわっている。

 そして今回の農業保険の仕組みでポイントなのが、リスクについて売上や所得をターゲットにしていることだ。
 売上や所得について、外的なリスクが大きいと捉えるならば、保険として成立する。しかし、農業と言えども、経営で考えると、売上や所得はリスクではなく、経営努力の世界である。

 また、米価などを外的なリスクと考えた場合には、農家はこの保険に参加することになるだろう。しかし、米自体は通常、JAなどを通じて販売され、都道府県レベル・全国レベルで米価は決まってくるため、米価というリスクは、全農家が負っているものである。
 そもそも保険は、保険金を支払わなくて済む人の存在で成立する。米価が下がった場合、ほとんどの米農家で売上・所得が減少することになるため、保険というものが成立しなくなってしまう。

 農業などに関連した保険が、これまでもなかったわけではない。

 国による農業災害補償制度や、民間保険会社の天候デリバティブといったものだ。ただあくまでも、所得・売上をリスクとしているのではなく、災害や天候などをリスクとするものである。
 また、価格下落を対象としたものとして、指定野菜というものがある。これは、産地ごとに野菜が指定され、その野菜の価格が下落したときに補給金が支払われるというものだ。しかしこれはあくまでも補給金であり、農家の保険料を原資としてメインとしているのではなく、国や都道府県の資金(税金)が投入されている。

 つまり、所得や売上というリスクについては、保険としては成立しにくく、公的な資金でしか対応できないことを示しているのではないかとも思うのだ。

 以上のように考えると、この農業保険というものは、非常におかしな感じがしている。
 保険ならばもっと違う仕組みであったり、減反へのセーフティーネットならば他の手段があるような気がしてならない。

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