補助事業はうまくいかない?
よく補助事業はうまくいかないという意見がある。また、薬物中毒者を指す「薬漬け」になぞらえて、「補助金漬け」という言い方がされることもある。
確かに、補助事業特有の失敗はある。
例えば、
・補助金ありきで、事業を始めたりするため、事業そのものの成功させようという気が弱く、うまくいかない。
・補助金に頼っているので、補助金がなくなれば、事業は終わる。
・補助金には、ルールがあり、そのルールによって、事業が歪められる。
・審査などがある場合には、選ぶ方に目利きの能力がない、または無難なものが選ばれる。 など
もっともであるが、補助金がない事業がすべてうまくいっているかといえば、そうではない。
例えば、創業などを考えた場合、1年後には3・4割が、2年後には半分近くが廃業してしまうし、継続していても、創業時の計画とは違う事業を行っている場合も多い。特に、事業ベースで考えれば、更に多くの事業が失敗に終わっていることも多いだろう。
つまり、補助事業特有の失敗というものはあるが、そもそも新たに事業を興すということは、失敗することが多い。
逆に言えば、補助事業でなければ、必ず成功するかといえば、そういうことはありえない。
それならば、なぜ、上記のように「補助事業はうまくいかない」という意見が出るのかというと、実務的・経営的な視点のみで考えており、政策的な視点が欠けていることが多いからだ。
補助事業の政策的な視点
なぜ、政府や自治体が補助事業を行うかといえば、その事業がうまくいくことをサポートするためである。
その点で、補助事業がうまくいかないというのは、政策的には失敗であり、問題である。
しかし、補助事業というのは、事業がうまくいくためという政策目的のためにあるのではない。
生活がたいへんであったり、事業がうまくいっていない事業者をサポートするためにもある。
例えば、農業に関して、補助金などが農業を駄目にしたという話がある。確かに、産業的な観点でいえば、その意見は正しい。しかし、窮民保護・弱者保護という政策目的であれば、違った論点になるだろう。
その点で、保護行政は良くないという意見もあると思う。それはもっともな部分があるが、政策論的には、それ以外で、補助を行うことがある。
1つは、上記の「事業がうまくいくことをサポートする」と関連するが、ある事業を行っている事業者に対し、その事業のスピードを加速化させたり、事業に弾みをつけるために、補助を行うという側面がある。補助事業という言葉にあるように、補助事業はあくまでも「補助」であり、プラスアルファでもある。
2つは、裾野を広げるためである。補助事業がなければ、資金などの面で、できない事業もある。また、補助事業を行うことで、リスクを軽減し、より新たな事業を行いやすいような事業環境を作るという側面がある。
この点でいえば、通常のビジネスでは行わないようなことも行われたり、リスクが高い事業が補助されるため、補助事業というのは、うまくいかないという面を助長しているともいえよう。逆に言えば、補助事業がうまくいっている事業ばかりというのは、別に補助金がなくても、うまくいく事業と言えるのかもしれない。
3つは、補助金というものを通じ、機運を醸成することもある。補助金はお金なので、目に付きやすい。
補助金という目玉を用意しながら、実は、その地域・分野において、新たなことを行おうという機運を作り出すというツールでもある。ここ1・2年、「創業」が話題であるが、その裏には、国の創業補助金という補助事業がある。
4つは、補助事業を通じてのレベルアップということもある。競争的な補助事業の場合には、補助金を獲得するためには、市場を調べたり、しっかりとした計画を立てなければならない。特に、お金というものが絡むため、真剣になる。
あまりこの部分に着目している補助・自治体は少ないが、その能力・技術は、補助事業以外でも、現在では必要になっているものである。
まとめ
補助事業はうまくいかないというのは、ある意味、正しい。
しかし、政策論的には、事業の成否以外でも、目的を有している。
補助事業はうまくいかないというのは、ある意味、マイオピック・近視眼的でもある。
かつて民主党政権の事業仕分けで、「2位では駄目なんですか」という話があったが、補助事業を批判するのは、その論理に似ているように思う。
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