概要
農山漁村再生可能エネルギー法(正式名:農林漁業の健全な発展と調和のとれた再生可能エネルギー電気の発電の促進に関する法律)が成立した。
この法律は、農山漁村で再生可能エネルギーの推進を図るため、認定を受けた者に対して、現在の規制について、特例を認めるというものである。
具体的には、市町村が基本計画を作成し、それに基づき、再生可能エネルギー設備の整備を行おうとするものが申請を行い、市町村により計画が認定されれば、許可規制などが緩和されるというものである。
特例
再生可能エネルギー設備を設置するにあたっては、様々な規制がある。
この法律に基づき、認定を受けると、それぞれの法律について、次のような規制が緩和され、国や都道府県の許可が不要になったりする。
法令 | 条文 | 原文 |
---|---|---|
農地法 | 4条1項、5条1項 |
【農地法4条1項】 農地を農地以外のものにする者は、政令で定めるところにより、都道府県知事の許可(その者が同一の事業の目的に供するため四ヘクタールを超える農地を農地以外のものにする場合(農村地域工業等導入促進法その他の地域の開発又は整備に関する法律で政令で定めるもの(以下「地域整備法」という。)の定めるところに従つて農地を農地以外のものにする場合で政令で定める要件に該当するものを除く。第五項において同じ。)には、農林水産大臣の許可)を受けなければならない。(以下、省略) 【農地法5条1項】 |
酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律 | 9条 |
【酪農及び肉用牛生産の振興に関する法律9条】 集約酪農地域の区域内にある草地につき政令で定める開こん、造林その他の行為をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事に届け出なければならない。 |
森林法 | 10条の2第1項、34条1項・2項 |
【森林法10条の2第1項】 地域森林計画の対象となつている民有林(第二十五条又は第二十五条の二の規定により指定された保安林並びに第四十一条の規定により指定された保安施設地区の区域内及び海岸法第三条の規定により指定された海岸保全区域内の森林を除く。)において開発行為(土石又は樹根の採掘、開墾その他の土地の形質を変更する行為で、森林の土地の自然的条件、その行為の態様等を勘案して政令で定める規模をこえるものをいう。以下同じ。)をしようとする者は、農林水産省令で定める手続に従い、都道府県知事の許可を受けなければならない。(以下、省略) 【森林法34条1項】 【森林法34条2項】 |
漁港漁場整備法 | 39条1項 |
【漁港漁場整備法39条1項】 漁港の区域内の水域又は公共空地において、工作物の建設若しくは改良(水面又は土地の占用を伴うものを除く。)、土砂の採取、土地の掘削若しくは盛土、汚水の放流若しくは汚物の放棄又は水面若しくは土地の一部の占用(公有水面の埋立てによる場合を除く。)をしようとする者は、漁港管理者の許可を受けなければならない。ただし、特定漁港漁場整備事業計画若しくは漁港管理規程によつてする行為又は農林水産省令で定める軽易な行為については、この限りでない。 |
海岸法 | 7条1項、8条1項 |
【海岸法7条1項】 海岸管理者以外の者が海岸保全区域(公共海岸の土地に限る。)内において、海岸保全施設以外の施設又は工作物(以下次条、第九条及び第十二条において「他の施設等」という。)を設けて当該海岸保全区域を占用しようとするときは、主務省令で定めるところにより、海岸管理者の許可を受けなければならない。 【海岸法8条1項】 |
自然公園法 | 20条3項、33条1項・2項 |
【自然公園法20条3項】 特別地域(特別保護地区を除く。以下この条において同じ。)内においては、次の各号に掲げる行為は、国立公園にあつては環境大臣の、国定公園にあつては都道府県知事の許可を受けなければ、してはならない。(以下、省略) 【自然公園法33条1項】 【自然公園法33条2項】 |
温泉法 | 3条1項、11条1項 |
【温泉法3条1項】 温泉をゆう出させる目的で土地を掘削しようとする者は、環境省令で定めるところにより、都道府県知事に申請してその許可を受けなければならない。 【温泉法11条1項】 |
ポイント
このように、許可などが不要になるので、再生可能エネルギー設備の設置が進むといえるのかもしれないが、この法律については、いくつかのポイントがある。
①事業者ではなく市町村が調整役
7条4項で次のような条文があり、市町村が計画を認定するにあたっては、国や都道府県の同意が必要となっている。
計画作成市町村は、前項の認定をしようとする場合において、その申請に係る設備整備計画に記載された再生可能エネルギー発電設備等の整備に係る行為が次の各号に掲げる行為のいずれかに該当するときは、当該設備整備計画について、あらかじめ、それぞれ当該各号に定める者に協議し、当該再生可能エネルギー発電設備等の整備に係る行為が第一号、第二号及び第四号から第十号までに掲げる行為のいずれかに該当するものである場合にあっては、その同意を得なければならない。
すなわち、この法律のポイントは、規制が緩和されるというよりは、これまで事業者が行っていた許認可などのやりとりについて、代わりに市町村が行うということなのである。
②農林漁村だけが対象ではない
農林漁村というと田舎をイメージするが、このような縛りがないので、街中でもこの法律は利用できる。特別区については規定がなく、対象外ということになるだろうが、農林水産業に役立ちさえすれば、市町村の認可は必要だが、どこでもよい。
③多くの規制を対象としている
農林水産省所管の農地法などだけではなく、自然公園法や温泉法などの規制について、この法律には書かれており、多岐に渡っているというが、正直な印象だ。
ただ、電気事業者法や水利権などの問題は、この法律では規定されていない。例えば、私人間の権利関係なので手を加えることができなかったのだろうが、水力発電のネックは、水利権である。
④やはり中心は農地
上記のように、多くの規制を対象としているが、この法律のメインターゲットは、次の2つである。
1つは、これまで曖昧であった耕作放棄地などへ太陽光発電の導入に当たって、法的な根拠を与えるというものである。もう1つは、農業しかできない第1種農地に対して、風力発電を導入できるようにしようということなのだろう。
感想
以上のように、この法律により、再生可能エネルギーを更に推進しようとしていることが伺える。
例えばこの法律により、再生可能エネルギー設備が導入されて場合の事例として、農林水産省のHPで、右のようなイメージが掲載されている。小水力発電などは、「土地改良施設の維持管理費の軽減」などとなっており、これが農林漁村の活性化につながるだろうかと思わざるを得ない。
はっきり言って、農林漁村の活性化と再生可能エネルギーの推進は一緒である必要はない。ただでさえ、メガソーラーなどが多く作られ、電力会社が系統連系拒否や買取拒否などを行っている状態である。ほっておいても再生可能エネルギーの導入は進んでいる。
再生可能エネルギーの導入推進が主目的なので、仕方がないが、もっと大きな農林漁村活性化の仕組みが重要だと思う。
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