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町工場地帯での住宅規制を、多面的に考えてみる。

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 東大阪といえば、昔ながらの町工場地帯として有名だ。そしてこの東大阪で、住宅建築に関する規制が導入されるそうだ。 背景としては、町工場地域の住民から工場に対して苦情が出ており、町工場の操業が妨げられたり、廃業・転出が起こっているためだ。

外部リンク産経新聞 2013/05/26
       「「変なにおいする」「うるさい」町工場地域の住宅待って…中小企業の東大阪が条例」

 住民の立場に立てば、このような規制は問題だろうし、町工場の立場に立てば、操業をやりやすくなるため、ありがたい話だろう。
 ただこの問題は、これらに留まらず、様々な問題を含んでいる。

 1つは、本来は町工場が多数派で、住民は少数派であったのだろうという点だ。具体的な場所ごとには異なるだろうが、多くはかつて、工場地帯なので、住宅よりも工場が多かったはずである。しかし、工場経営が難しくなり、廃業・転出が多くなり、そこに新たに住民が入っていった。特に、工業地域はそもそも土地の値段も安く、工場の騒音などもあることから、比較的安価に住宅が購入できたはずだ。このように次第に住民が増え、いつの間にか、少数派であった住民が多数派の町工場を凌駕し、現在では町工場をその地域から追いやろうとしている点である。

 2つは、町工場のような集積は一度、失われたらもう戻らないという点だ。郊外でも工場の創業は少なくなっている中、街中で新たに工場を作るというのは難しい。かつて町工場の集積地と言われた地域でも、現在では普通の住宅街と変わらないところが多いのが現実である。よく城下町などで街並みを維持するために、景観規制が行われるが、今回のこの規制も同様の趣旨を含んでいると思う。

 3つは、東大阪としては、市内産業を守るという点で、正しいということだ。工場の維持が難しい中、市としては、何とか事業者の廃業を防がなければならない。工場がなくなってしまえば、経営者は勿論、従業員の雇用を守ることができない。特に、町工場だと、市内住民と工場主や工場労働者がイコールの場合が多いため、工場がなくなるということは、住民である経営者や労働者の失業へと繋がってしまう。

 4つは、東大阪市としては正しいが、合理的とは言えない面もある。工場の廃業は困る話だが、転出という選択肢もある以上、必ずしも規制をする必要はない。近隣の市町村に移転して、操業を続けてもらえばいい話である。むしろ、住宅地としての様相が強くなっているのであれば、工業地帯として維持される必要性は全くない。もともと事業者は行政区域で活動しているわけではないので、東大阪市よりもより大きな地域で考えると、この規制自体、無意味な話である。

 以上のように、この問題は、住民視点に立つか、事業者視点に立つかといった論点だけでなく、いろいろな問題が絡んでいる。

 私としては、町工場地帯が失われるのは悲しいが、市区町村の行政区域では地理的に狭すぎるため、市区町村が産業・企業活動にアプローチするのは難しいと思っている。大阪府などが、町工場地帯を守るのではなく、工場という事業を守るということのほうが重要ではないかと思うのである。


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