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行政によるトップセールスは、嘘である

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 よく首相や自治体の首長が、トップセールスを行うと宣言する場合がある。
 しかし、これは多くの場合、嘘であり、次のような理由による。

①お膳立て
 トップセールスといっても、その多くは部下や事務官が事前に準備を行い、ある程度合意ができてから、トップがお出ましという場合が多い。言い方を変えると、政治的責任・リスクが伴うため、売れるかどうか分からないところには、トップは行かない。部下としても、トップに恥をかかすわけにはいかないため、売れるかどうか不明なところは、外すという配慮をとる。そして、ある程度見込みが立つかどうかを、トップ会談前に、用意しておくのである。

②資質・能力
 政治家とセールスマンの資質・能力は異なる。つまり、いくらトップがトップセールスを行うと意気込んでも、その能力が伴っているかどうかは別である。そこで、トップが意気込むほど、部下としては①のようなお膳立てが重要となる。

③行政は物を売っているわけではない
 トップセールスといっても、行政自体は、何か物を売っているわけではない。トップセールスが成功したとしても、行政自体が契約の主体になれるわけではない。トップセールスと言いながら、民間事業者などの営業代行を行っているに過ぎない。

④日本は民主主義国家である
 いくらトップが頑張ってセールスしても、最終的には事業者・議会・住民などに対して、様々な合意・手続きが必要になる場合がある。会社ならば、経営者がOKを出せば、物事は進むが、行政・政治がそれを行えば独裁である。日本は民主主義国家である以上、必ずしもトップだけで物事を決めることはできず、様々な利害関係者との調整が必要となる。

⑤唯一可能なのは首相によるトップセールスだが…
 行政機関の中で、トップセールスができる唯一の存在としては、首相である。トップセールスといっても、その実は、外交と表裏一体である。そして、この外交権を行使できるのは、内閣であり(憲法73条2号)、その内閣のトップが首相であるからだ。
 ただこの首相にしても、そう大々的なトップセールスは難しい。基本的に、国際社会においては自由貿易が基本である。そこで、トップ同士が話し合い、物を売買することは難しい。また、インフラなど政府が整備するものに対しては、トップセールスは可能であるが、相手国がWTOなどに加盟していたら、WTOの政府調達の基準に引っかかるため、公正な手続きが要求される。相手国が独裁的な国家であったり、行政権が強い国であるならばいざしらず、通常であれば、一方的に物を売ることはできないだろう。民間企業ならば、物を売る者と買う者は明確に分かれる場合が多いが、この場合には、何らかのバーターが要求されることになる。
 つまり、トップセールスというよりは、通商交渉・外交交渉の色彩が強くなるのである。

 以上のように、トップセールスなどを行政の長が言っていても、その中身はトップセールスでない場合が多い。
 そして、実際はトップセールスと言いながら、トップ広報マンというのがその実態である。


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