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幼稚産業保護論について

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投稿国際経済学初級
発展途上国などにおいて、経済発展のためにとられる幼稚産業保護論について、説明します。
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幼稚産業保護論

 「幼稚産業保護論」とは、国際的に競争力の弱い産業に関して、海外からの輸入品について規制や関税などで保護することで、その産業を守り、国際的に競争力のある産業に育成しようとする政策です。

 このような弱い産業においては、海外の輸入品のほうが良い製品なので、貿易が自由化されていれば、輸入に依存することになります。輸入からの依存をやめて、自国での製造・生産を実施しようとする政策なので、「輸入代替工業化政策」とも言われたりもします。

幼稚産業保護論のプロセス

 例えば、時刻が農業国で、新たに製造業を育成しようとすることを考えてみます。

 農業国は、自ら工業品をつくる技術はなく、工業品を利用しようとする場合には、外国からの輸入に頼るしかありません。また、工業品を作ることができたとしても、先進的な外国の輸入品には太刀打ちができなかったりします。この結果、外国からの工業品の輸入を自由に認めてしまうと、自国で工業品を作る企業などが現れても、外国の工業品にはかなわず、すぐに倒産してしまったりして、自国で製造業は発展しなくなってしまいます。

 そこで、外国からの輸入品について、規制や関税をかけることで、輸入品が入らないようにすると、工業品を作ろうとする自国の企業にとっては、強力なライバルがいなくなるので、倒産などせず、やっていけることになります。

 ただ、技術力は乏しいが、自国内にはいくつもの企業が現れるので、切磋琢磨し、技術力・製品力は上がっていくことになります。この結果、外国の輸入品に負けないような工業品が自国で作られるようになります。

 これが、幼稚産業保護論のプロセス・考え方です。

幼稚産業保護論の例

日本

 日本においては、自動車産業やコンピューター産業など、様々な産業で幼稚産業保護論による政策が行われ、成功してきたと言われています。
 例えば日本では、コンピューター産業について、1950~60年代に幼稚産業保護論による政策が行われました。
 当時、アメリカのIBMがコンピューター技術を有しており、いかに日本にコンピューター技術を導入し、国内のコンピューターメーカーを育成するかが重要でした。そこで、次のような政策が行われました。

  • 特許をもつIBMに対して、IBMの日本子会社(日本IBM)でのコンピューター製造を認める代わりに、国内企業への特許の使用許諾を認めさせた。
  • 輸入コンピューターに対して、通産省からの許可が必要とされ、またIBMに対しては、国内シェアに関する行政指導が行われた。
  • コンピューターの開発に対して補助金や、日本開発銀行からの融資を実施した。

 この結果、日本において、コンピューター製造の基盤が形成されることになりました。

ブラジル

 1980年代に、ブラジルではパソコンの周辺機器産業を育成するため、外国製品の輸入を一切禁止しました。
 これにより、ブラジル国内の企業の生産性は上がり、パソコンの国内価格も下がっていきました。

 しかし、国内では強いものの国際競争力はなく、アメリカのパソコンには太刀打ちできませんでした。価格も国内価格が外国での価格よりも高いため、企業や国民から批判にさらされました。

 この結果、1992年にブラジルは保護政策を撤廃することになりました。

幼稚産業保護論に関する批判

 幼稚産業保護論に関しては、次のような批判が挙げられます。

 ①反自由貿易的政策
  自由主義経済においては、自由競争は大きな原則ですが、幼稚産業保護論は保護主義的な政策であり、その自由競争の原則に反することになるため、望ましくない政策といえます。

 ②経済厚生の低下
  保護された企業・産業にとってはいいことですが、本来は安価であったり、良質な外国品を利用できなくなるため、その製品を利用する他の産業や消費者にとっては不利益が生じます。

  言い換えると、保護政策により、市場に歪みが生じるため、経済厚生が低下し、「死荷重」が発生します。

 ③レントの発生
  「②経済厚生の低下」に関連しますが、保護された企業は、その保護により、一定の利益が得ることができ、ある種にレントが生じます。

 ④政府の能力
  幼稚産業保護論は、保護する産業を政府が決めなければなりません。
  しかし、どの産業を保護したらいいかについて、政府が決めることができるのかという問題があります。また、保護をしたからといって、必ずしも産業を育成できるわけではなく、自国で競争力のある産業になるとも限りません。

 ⑤保護の継続
  仮に、政策が成功したとしても、その保護が継続されてしまいがちです。
  保護を解除し、外国の輸入品との競争にさらされたとき、必ずしもその製品に勝てるとは限りません。特に、自国内で大きな産業に成長するほど、外国との競争に負けたときに、自国の経済・雇用に大きな影響を与えてしまいます。
  また、ある程度の産業に成長すると、業界団体などが形成され、、政治へのアクセスもなされることが多くあります。当然、業界団体としては、「③レントの発生」で述べたように、一定の利益を得ていますから、反対することになります。この結果、政府としても、保護をやめることがやりにくい面が出てきます。

 特に、発展途上国に適用される政策であり、先進国となった今の日本では、古めかしさを感じる理論でもあります。

 なお、幼稚産業保護政策を実施するにあたっての基準として、ミル・バステーブルテストというものがあります。

   幼稚産業保護政策を実施するための基準

参考

  橋本寿朗 他『現代日本経済

  戸堂康之『開発経済学入門

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