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税制改正大綱を読んで、気になること

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概要

 先月末に、自民党から税制改正大綱が発表された。

自民党「平成27年度 税制改正大綱

 ニュースなどでも報じられていたが、130ページ程もあり、老体にはきついが、改めて読んでみた。
 そして、すべてについて論じるわけにはいかないが、いくつか気になる点があるので、書きたいと思う。


気になること

法人税税率の引き下げ

 今回の税制改正の目玉としては、法人税税率の引き下げにあるだろう。この措置を巡って、財務省との対立なんていう噂もあり、改正以外でも気になる面もある。

 ただ内容的には、想定通り、税率の引き下げの代わりに、外形標準課税の税率を引き上げるというものだ。
 以前にも、「みせかけの実効税率の引下げ」で否定的な意見を書いたが、私はあまり賛成できない。

 なぜなら、(法人税全体の額が変わらなければ)単に税金のとり方を代えただけに過ぎないからである。しかも、このような措置をとれば、政府としては、税収が安定するので、むしろ喜ばしいことだと思う。

 実は、この法人税率と外形標準課税の関係は、所得税と消費税の関係によく似ている。なぜ、財務省などが消費税のアップを狙うかと言えば、税収アップもさることながら、税収として安定しているからだ。その点で、財務省などにとっては、税収が減ることは困るが、安定財源を得ることができるので、良い面もある。

 ただ、私は思うに、税収は、企業で例えれば売上である。よい政治・政策を行えば、景気がよくなり、税収も増える。逆に、税収を増やすために、景気を良くするように政府は頑張るということが大事だと思う。
 外形標準課税を増やせば、このようなリンケージは小さくなることを考えると、政府のある種の怠慢を感じてしまう。


ふるさと納税の控除額引き上げ

 ここ1・2年、話題となっているふるさと納税であるが、政府はこの盛り上がりを受け、特例控除額の上限の引上げを行うようだ。
 言い換えれば、もっとふるさと納税にお金(税金)を使うことができる。

 ただ反面、自治体のお礼の過熱を懸念し、自治体へ通知を行うようである。

 「ふるさと納税は政策としてはヒット作であり、もっと伸ばしたい、しかしお礼の過熱化も問題である。またこの過熱化に対して、規制を加えたい、しかし地方自治の中、規制を加えることもできない。」

 何だか、このようなジレンマの声が聞こえてきそうな対策である。

 私自身はふるさと納税については、非常に面白い仕組みだと思うが、単なる名産品の安売り競争になってしまっているような気がして、本来の趣旨とは外れているような気がする。

 この点で、これ以上、ふるさと納税を拡大するのは良くないと思う。直接的に規制を加えることができなくても、交付税の減額などといった形で規制を加えることができたりもするし、その一部をプールして他のことに使うなどもできるだろう。

 個々の自治体が自主的に実施していることについてはあまり反対はしたくないが、そもそも国税・国策が絡んでいる以上、上記のような中途半端なことはせず、しっかりとした地域対策を行ってほしいと思う。


繰越欠損金の減額

 企業が赤字を出しても、その赤字を繰り越して、利益が出た年に、その赤字分を減額しただけ税金を払えばよい。これが、繰越欠損金という制度である。

 この制度自体は、ある種、年度間の不均衡をなくすため、必要な制度である。
 例えば、昨年は大赤字を出したが、今年は黒字であったという場合に、昨年の大赤字を考慮されず、今年の黒字だけを見て課税されるのは、不当といえよう。また実務的には、節税するために、いつ利益を発生させるかなどを考えることもあるが、この制度により、そのような対策が緩和されるという面もある。

 そして、今回の改正であるが、この繰越欠損金による税金の割引を減らそうというものである。従来、昔の赤字に対して、80%の税金の割引が認められていたが、今後は、65%、50%とその割引を減らそうとしている。
 
 しかし、上記で述べたように、繰越欠損金は、直近の年度間の不均衡をなくそうという制度趣旨だと思う。
 このように考えると、割引を減らすのではなく、繰越欠損金が認められている年数を減らすべきだ。

 繰越欠損については、かつては7年であったが延長され、現状9年となっている。上記のように、利益に関して年度間の不均衡を調整する必要はあると思うが、9年前に発生した赤字で、現在の税金の割引が受けられるというのはおかしい。

 以前から、繰越欠損の制度が変わりそうだという話を聞いていて、常識的な制度になることを期待していた。しかし、このような形になり、残念である。控除額の減額ではなく、繰越欠損の期間の短縮を図るべきだと思う。


地方拠点強化税制の創設

 これは、先月、「本社機能の地方移転促進、地方が問われている!」で書いたが、期待していた税制である。

 ただ蓋をあけて見れば、よくあるパターンの特別償却もしくは税額控除である。そして、財政を気にしてか、その比率も決して高くはない(特別償却は15%、税額控除は2%)。

 設備投資などが絡むため、固定資産税などを動かすのかと思っていたが、そうなると、交付税措置などが別な課題が発生するため、このような措置になったのだろう。

 期待していただけに、もっといろいろと打ち出してほしかったと思う。


手続委託型輸出物品販売場制度の創設

 これは、外国人観光客を増やそうと、免税店の増やす措置を行っているが、その拡充の税制改正である。

 以前、「免税店の売上アップ、本当に良いのか?」で書いたが、現状の個別店舗ごとに免税措置を決めるというのでは、個々のお店ではあまりメリットは受けない。

 そこで、商店街などで総合的な免税手続きを行えるような場所を設けようというのが、この税制の趣旨である。

 上記の記事でいくつかの問題を書いたが、その一つがクリアされそうで、喜ばしいことだ。

 ただ、いかにも現実的ではない面もある。なぜなら、その販売場の設置を「商店街振興組合」としているからだ。確かに、法律上の組合組織を形成している商店街も多いが、任意団体の商店街も多い。
 また、「中小企業等協同組合法」の組合を想定してるが、観光地などでは、(いろいろな団体に相乗りしていることも多いが)任意や組合法以外の観光協会など、前面に立った方がいいこともある。

 この点で、方向性としてはいいが、政策としては、実情を分からない人が立案したものだと言わざるを得ない。


まとめ

 他にもいろいろと細かい点で気になることがある。

 ただ総論としては、目玉がありそうで、実際はテクニカルな骨細の税制改正といった印象だ。

 そして同時に、政策ツールとして、税というものの重要性の低下を感じた次第である。

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