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みせかけの実効税率の引下げ

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 政府税制調査会が、赤字法人への課税強化を検討しているようです。
 
2014年04月24日 毎日新聞「政府税調:赤字法人への課税強化を検討」

 そこで、今回の措置について、書いてみたいと思います。

内容

 赤字法人への課税強化とありますが、その実態は、法人税を引き下げて、その代り、法人事業税の外形標準課税を拡大するというものです。

 ここで、外形標準課税について簡単に述べると、法人事業税において、資本金1億円以上の会社に課せられる税率で、通常、所得に対して税金は課せられますが、外形標準課税にあっては、次の3つから構成され、所得以外の要素も考慮して課せられる税金です。

  • 所得割
  • 付加価値割
  • 資本割


 所得割とはその名の通り、所得を基準に課せられるのですが、ポイントは、付加価値割と資本割です。

 付加価値割は、収益配分額(報酬給与額+純支払利子+純支払賃借料)と単年度損益を元に課税されます。この収益配分額を見たら分かるように、従業員が多く、給料を多く支払っている場合など、税額が大きくなります。また、資本割は、資本金の額を元に税額が計算されます。

 つまり、付加価値割と資本割は、利益の有無とは関係なく、従業員の多寡や資本金の額など、その規模などの外観で税額が決まってくるため、「外形標準課税」という名称が付されています。

 そして、今回の措置は、利益ベースの法人税から、従業員の多寡や資本金の額などで決まる外形標準課税を増やそうという試みです。

 ただどうも、法人税の実効税率の引き下げが先行しており、この変更により、どのような効果があるのかが疎かなような気がします。

 そこで、法人税引き下げ、外形標準課税の拡大でどのような効果があるかを考えてみました。

①実効税率の引下げ

 この議論の中心である実効税率については、引き下げが行われます。
 からくりは、実効税率の算定式にあります。

  実効税率 = (法人税率+(1+住民税率)+事業税率)÷(1+事業税率)

 ここで事業税率は、今回の法人事業税のものですが、あくまでも所得割の部分だけで、付加価値割や資本割は含まずに計算されます。そのため、付加価値割や資本割の税率が引き上げられようが、この事業税率は変わりません。
 その代わり、法人税率が引き下げられれば、実効税率は低くなるということです。

 この点で、確かに今回の措置で、実効税率の引き下げは可能となりますが、(単に法人税の引き下げ分を法人事業税で増税するというならば)企業全体で見れば、税負担は変わりません。

②大企業への課税拡大

 上記で述べたように、外形標準課税は資本金1億円以上に企業に課せられる税金であり、従業員や資本金などが多いほうが、税金が高くなる仕組みです。

 この点で、大企業の税負担は大きくなるでしょう。特に、利益が少なかったり、赤字の企業にとっては、法人税減税が行われてもその効果はあまりなく、外形標準課税で税金がとられることになるので、負担が重くなります。

 他方、小さな中小企業にとっては、法人税減税が行われるので、(現在でも、中小企業税制で軽減税率が適用されているが)プラスといえるでしょう。

③国税から地方税への移転

 法人税はあくまでも国税であるが、法人事業税は地方税です。
 ニュースでは、「事業税の見直しで、実効税率引き下げの財源が捻出できる」(幹部)」という意見もあるようですが、この措置によって、税金が入ってくるところが変わってきます。具体的には、国の財源は減り、地方の財源が増えるということです。

④地方交付税の削減

 とはいえ、地方も手放しで喜んでいられるわけではありません。
 法人税の34%が、地方交付税の財源となっているため、法人税が少なくなれば、地方交付税も減ることになります。

⑤首都圏などの自治体が潤う

 ②~④と絡みますが、この措置がとられると、大企業などが多い、首都圏の自治体がその恩恵を多く受けるでしょう。そもそも地方の場合、大きな企業が少なく、賃金も安い傾向があります。

 また複数の都道府県に事務所があるような企業は、分割基準というもので、それぞれの自治体に従業員数などで按分されるため、従業員数などが多い都道府県は有利です。

 いずれにせよ、大企業や従業員数が多い都道府県が、この措置によって、大きな恩恵を受けることになると思います。

⑥安定した財源の確保

 そしてこの外形標準課税は、利益ではなく、従業員の多寡や資本金などで税額が決まるため、自治体としては、より安定的な財源の確保ができることになります。

⑦従業員への効果は不明

 上記のように、外形標準課税の付加価値割は、従業員の給料などが多いほど、多く課税される仕組みです。そこでニュースによると、経済界から「(外形標準課税は)『賃金(に対する)課税』でもあり、企業が雇用を増やせば増やすほど増税になる。安倍政権が取り組む賃上げと逆行する」という意見もあるようです。

 確かのこのような面はあるでしょうが、「雇用安定控除」という形で、従業員の給料への課税については考慮がなされています。
 上記の経済界の指摘も正しい面もあることを考えると、付加価値割よりも資本割の増税を増やしたり、この「雇用安定控除」の拡充や新たな制度の検討などがなされるでしょう。

最後に

 今回のこの措置には、私はあまり賛成できません。

 なぜなら、実効税率を低く見せようという、単なるトリックに過ぎないような気がしているからです。
 法人税以外にも地方税は勿論、企業には社会保険などの負担も行わなければなりません。当然、このようなことも含めて、企業は立地を決めます。
 そして仮に、実効税率が下がってたくさんの国の企業が日本に来たとしても、雇用などを伴わないペーパーカンパニーでは困ってもしまいます。

 見栄えという実効税率も重要だが、大企業と中小企業、黒字企業と赤字企業、都会と地方、国と地方など、様々な面を考えて、どのような税制が相応しいかをまず考えるべきでしょう。

 税収としては小さいかもしれませんが、赤字企業からもっと税金を徴収したいというのならば、繰越欠損金などの制度を見直すことも考えられます。今回のような法人税を引き下げて、実効税率を下げるということであっても、法人住民税の均等割を検討したりもできます。

 税金は企業経営にとって非常に重要です。それゆえ、税金は経済政策の重要なツールの一つです。

 単に、実効税率を低くしようというのではなく、日本という国が、どのような経済ステージであるべきかなど、しっかりと理念も見据え、検討してほしいと思います。

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