山形の鶴岡信用金庫が、山形DCの観光客数に応じて、定期預金金利を変動させるというサービスの募集を開始した。山形DCとは、山形デスティネーションキャンペーンの略で、JRが行う観光キャンペーンである。そして、このキャンペーンで観光客が多ければ、この金融商品の金利が上がるという仕組みである。
一見すると、よくあるような銀行のイベント・キャンペーン商品のような気がするが、非常に面白いと私は感じている。
信金など、地域の金融機関にとっては、地域経済の動向は、その金融機関自体の死活問題にもかかわる。産業として考えると、地域経済が元気だからこそ、その金融機関も儲かり、生き延びていけるのだ。逆に言えば、地域経済が悪く、倒産などが多い地域では、お金を貸しても返ってこないので、地域の金融機関としてはやっていけない。
この点で、観光客が増加し、地域が儲かれば、地域の住民にその収益を還元するという今回の商品は面白いと思う。
右図のように、矢印が綺麗に左回りになっており、みんなが得するような仕組みで、ビジネスモデルとしては、非常に面白いと思う。
とはいえ、この仕組み自体は問題がある。
ポイントは、最初の地域住民が観光客にPRをするか否かである。
現状、地域住民が、その友人などの観光客にPRをしても、山形に来てくれる分からない。来てもらっても、様々な小売業者・宿泊業者などから構成される漠然たる「地域経済の活性化」というテーマであるため、この効果に実感は持てない。
このような点から、地域住民は観光客にPRをするという誘因は乏しく、PRをしようと思わなかったり、単なる射幸心でしか、この商品を購入しないだろう。
この意味で、仕組みとしては面白いが、うまくは行かないような気がしている。
ただ同時に、この仕組みのアイデアから、もっと洗練された仕組みができるような気がしている。
勿論、1社だけだと生々しいので、金融機関の「お勧め企業」などの形で、いくつもの企業を選定などし、バルクとして、その企業収益と地域住民への金利を連動させるような形にすればいいだろう。
このようにすれば、地域住民としては、自分の貢献度が見えやすく、この選定企業から商品などを購入しようというインセンティブが強くなる。そして、その企業の売上などが上がれば、地域住民への金利を上げるなどの形で還元すればいいだろう。
勿論、私のアイデアベースなので、まだまだ洗練された仕組みとは言えない。
なぜならば、金融機関としては、選定企業として、よくない企業を選定するというインセンティブが働くからだ。良い企業を選定しても、金融機関としてはメリットが少ない。なぜならば、そのような企業は、問題なく、貸したお金に対して、元本や金利を返済してくれるからだ。
むしろ、悪い企業の売上などを上げ、元本・金利の回収を図ったほうが、金融機関としては良い。
特に、金融機関としては、金利差益という点で収益の還元を図るというものもあるが、このような良くない企業に対しては、むしろ債務者区分を変更し、引当金を減らすという形で、金融機関としては収益アップを図りたいのではないかと思う。そうなると、このような仕組みだけでは、到底、そうはならないことが予想される。
また、詳細を調べていないので分からないが、法令上や検査マニュアルなどで制約があるかもしれない。
このように、仕組みとしてはまだまだ不完全だ。
ただ、地域の金融機関は、その地域の経済と一蓮托生である。その点で、地域の住民・事業者・金融機関などがウィン-ウィンになれるような仕組みというのは、重要だと思われるし、今回の鶴岡信金の取組みは示唆的であると思う。
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